この国の、美しいもの。
料理、着物、建物、言葉、舞、祭
それらはすべて、この国ならではの四季に基づいています。
どのようにして、季節を表現するか。
どのようにして、季節を滲みださせるか。
四季のある国は世界にたくさんあるけれど、
これほど四季に囚われた国民は他にいません。
私たちは咲く花に来る季節を感じ、散る花に行く季節を想います。

長い歴史の中で、永遠や宝石に価値を見出さなかったこの国の人々が
心を震わせ続けてきたもの。

花を贈ることは、季節を贈ること。
それはこの国で、最も価値のあるもの。

西村花店のコンセプトは、「現代の季節感」です。

便利で快適な現代の生活は、季節感を希薄にします。断熱材の入った鉄骨の建物に行き届いた冷暖房、エアコンで乾燥した空気を加湿器で湿らせます。花の方も生産技術のめざましい発達により、ほとんどの花が季節に関係なく手に入るようになりました。流通の発達は日本に咲くことのないたくさんの新しい花をもたらしましたが、そのスピードが速すぎて、見た目のかわいさと意味のわからないカタカナの名前だけが独り歩きして行きました。異国の花、フラワーデザインにまつわる新しい技術、ハロウィーンやバレンタインなど新しい季節行事、コンディショネイトされた著しく乾燥した部屋と暑すぎる夏。「現代の暮らしには季節感がない」。確かにそうかもしれません。しかし嘆く前に、日本がこれまで培ってきた独自の季節感を守りながら、今この時代でしか楽しめない、新しい季節感に挑戦するべきだと思うのです。

主宰/華道家 西村良子

西村花店のユニークな点は、華道家によって営まれていること、そしてその華道家が、社会学を学んだ者であるということです。
いけ花の歴史、日本ならではの季節感、空間の使い方。長い歴史の中でこの国が培ってきた美意識の中で、現代の社会でも通用する要素は何か。通用しないものは、何かアレンジする余地があるのか。それらの問いに、向き合い続けている花店であるということです。
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Travel notes

西村花店の、もう1点のユニークな点は、京都・木屋町通の高瀬川に面した花店であること。
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思い返せば水に恵まれた土地で生まれて育ち、それが当たり前すぎてどんなに有難いことかも知らないままに、でも、水のある景色に惹かれてきました。私がアムステルダムに滞在している間、ある大学の先生が送ってくださった言葉が今でも忘れられません。「人間は水がないと生きられませんから、歴史ある都市には、必ず川が流れています」。たくさんの、水の流れるまちの風景を見て来てくださいね、と。
私は花が好きです。でも本当に好きなのは「日本の季節」で、「日本の季節」というのは、日本の人々が作り上げたてきたものに他なりません。同じように水のある景色が好きで、水の流れているまちが好きで、それは結局のところ、その土地での人々の営みそのものなのです。つまり、花のある空間も水のある景色も、そこから見えてくるのは、日本の人々の美意識や暮らし方なのです。その中で現代にもいかせる知恵と、未来にも受け継ぎたいものを見極めること。それこそが、私が花店を営む上で、本当にみなさまに伝えたいことではないかと思うのです。
そう多くはありませんが今まで旅に出た先で、いつもそういう景色に心を揺さぶられるのですが、いつの間にか忘れてしまうので、旅行記にまとめることにしました(大切なことって、どうしていつも忘れてしまうんでしょうね)。

山科郡上八幡2016Venezia2015