Hydrangea Fantasy

個展;2012年6月22-25日 「Gallery I」、京都
Flower;  あじさい

遠くからたった一目見て、恋した人に近づくため。彼女は尾ひれと声を捨て、人間の足を手に入れる。
与えられた美しいものすべてを捨て、それでも王子が手に入らなかった少女は、泡になって消えてしまう。
すべてを失い、愛する人も失い、体が溶けて消えていくってどんな感じ?
例えば雨に濡れるあじさい。
粒になった水が葉に馴染み、気持ち良さそうにも見えるけど、悲しそうに涙を流しているようにも見える。
消えるってこんな感じ?
痛みもなく悲しみもなくあたたかな雨に打たれながら、気づけば自然と泡になる。 

六月、今年もあじさいの花が咲く。
土によって色が変わるこの花は、たくさんの色で初夏の街を彩っている。
青いあじさいには涙を、真っ赤なあじさいには狂気を思う。
この花を見ていると、昔読んだ絵本を思い出した。タイトルは『人魚姫』。
狂気にも似た恋に落ちた、一人の少女の物語。
道路の傍で、排気ガスにまみれたあじさいが見せる夢、ハイドランジア・ファンタジー。
願うなら、何処ででも夢を見ることができる。

あじさいは、時とともに、場所や雨によって、変化していく色が魅力です。
しかしその性質から、花言葉を「移り気」といいます。
代表的な色は、海を思わせる深いブルー。
そのことから「人魚の姫の初恋」をテーマにした、初夏の花展です。
それは悲しくて、でも情熱的な、青い炎のような恋でした。

物語をもっている花が、世界にはたくさんあります。
その国や地域の神話に基づくもの、戯曲や映画に登場したことによって、そのイメージが定着したもの。
シェークスピアの作品にはまるで植物図鑑のように、たくさんの花が登場します。
花言葉も、そういう物語を基に作られました。
それは人間と花との暮らしの歴史そのものに思えます。
その土地に暮らす人々がその花を愛し、共に生きて来た証です。
私は、その物語を知っている数だけ、花を見ることやいけることが楽しくなると思うのです。
そんな想いから、花と物語で、「大人の絵本」のような空間作りに挑戦した花展です。