11月;雪 “snow and words”

花はしばしば、儚いものとして語られる。
その花よりも儚いものに、雪がある。

現代のカメラや通信の技術は、
花の美しさを
遠くの誰かに伝えることを可能にした。
しかし未だ、雪の美しさをとらえることは難しい。
人の心を揺さぶる、雪。
冷たさ、静けさ、清らかさ、儚さ。
そのどれもが、写真には写らない。
雪を前に、私たちは先人たちが心を痛めた無力さを
感じることができるのかもしれない。

舞い落ちてきた雪のひらを見上げ、
手の中で消えてしまった雪の粉を
「見せたかった」
そう思った誰かがいるなら
それは、あなたが言葉を
あるいは花を、贈るべき人。

梅の花 降りおほふ雪を包み持ち
君に見せむと 取れば消につつ
(万葉集 読人知らず)

雪

雪 裏


ある寒い冬の朝、大学生のとき、付き合っていた彼がアパートから帰っていた。家を出てすぐに携帯電話が鳴ったので、忘れ物かと思ってメールボックスを開いたら、画面にはたった2文字。私はそれを見て、勢いよく窓を開けた。一面真っ白で、音もなく雪が舞っていた。

他にも素敵な思い出たくさんあったはずなのに、寒くなると今でもときどき、この朝のことを思い出す。画面に映った「雪だ」の文字、思ってもみなかった雪景色、そして見たわけじゃないけれど、メールを送った携帯電話をポケットにしまい、まっさらな白い道に足跡をつけながら、駅まで歩いて行く彼の後ろ姿。開けた窓の向こうに広がった景色に、白い息が重なった。ゆ き だ。たったそれだけの言葉で、誰かの心をこんなにも、温かくすることができるなんて。

言葉には、2種類あるんだと思った。1つはその言葉自体に、力がある言葉。もうひとつは、言葉そのものではなく「伝えたい」と思ったことに、力がある言葉。雪の美しさはうまく写真に写らないけれど、だからこそそれを誰かに伝えたいと想う気持ちが、本当は何よりも、美しいんじゃないかと思う。

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