CLOCK

1秒よりも早く刻む電光のメモリ。
その束の間に何万本という花が競り落とされ
世界中への流通を可能にした電子セリ
“クロック”。
自ら野に入りたった1輪を選び抜き
その命を惜しみながら器にいけたかつての花人は
そんな時代を嘆くだろうか。
つぼみがふくらみ花が咲き、散りやがて果てて行く様を「時」と呼ぶならば、
“クロック”が叶えた未来は
花の在り様を歪んだ方向へ進めてしまったのだろうか。

どんなにいけても、美しくいけても、花はその姿をとどめない。
先人たちは、それでも花をいけ続けた。
彼らは知っていたのだ。
すくってもすくっても指の隙間から零れ落ちて行く
その流れの中にこそ美しい光の粒があることを。
その姿を、何もできずにただ眺めるしかない無力さに
しかし人は心を震わせるのだと。
私たちが先人から受け継いだのは
花の選び方やいけ方の指南ではない。
この国が独自の気候と季節と文化の中で1つ1つのパーツを作りあげた
“時計”だ。

先人たちは見る術もなかった南の楽園の花、高い高い山の上の花。
そんな花や新しい技術や道具が、望めばいくらでも手に入る時代。
彼らがこの姿を、嘆くことがあるだろうか。
彼らが私たちに託した願いは、
どんなに時代が移ろおうとも、受け継いだ“時計”を巻き続け、
この国に流れる、正しい時を生きていくこと。

その先に、2つの時計(クロック)が響き合う未来を信じて。

CLOCK