花屋は紅葉を売らない

2019年11月21日

木屋町通には、高瀬川沿いに桜、歩道側にはトウカエデが植えられている。高瀬川と桜の景色はちょっと有名なので、木屋町は春が見頃の通りだと思う方が多いけれど、私は木屋町は秋の通りだと思う。春見頃なのは桜だけだけれど、秋は桜もトウカエデも美しく色付く。晴れた日はお昼前から夕方くらいまで光が溢れ、通り前面が錦色で包まれる。澄んだ浅い流れに秋色の落ち葉がところどころたまっているのも良い。「そうだ紅葉見よう」と東福寺や永観堂に行かれる方も多いけれど、都市の人々は、こうやって日々の暮らしの中で、身近な木々が紅葉するのを知らないうちに楽しんでいるのではないかと思う。

秋といえば紅葉。しかし、植物によって季節を提供するはずの花屋で、紅葉した枝物を取り扱われていることは、案外少ないのではないかと思う。理由は簡単で、商品にならないのだ。
紅葉は、落ちる寸前の葉。値段のわりにもちがすごく悪いし、もちろん乾燥した現代の空間ではいっそう葉の落ちは早くなる。加えて、葉があまりきれいじゃない。春からずっとついてる葉なわけだから、そりゃあ傷や汚れもつく。そういうわけで西村花店では、紅葉ものは比較的丈夫できれいなブルーベリーくらいしか仕入れない(それでも棚にあるとぐっと秋らしくなる)。あとは加工ものだ。“ファーガス・リーフ”という名前で売られている、プリザーブド加工した樫の葉と、造花のもみじを使う。ファーガスリーフは黄、オレンジ、赤、茶、こげ茶といろいろに色が入れられていて、秋らしいのに華やか。造花も昔はいかにも作り物という感じだったけれど、最近のはすごくよくできている。いけこみのときにもまわりにあしらうと一気に季節感が出る。

私たち現代人は、こんな風に、身近な街路樹や加工されたもので秋の紅葉を楽しんでいるわけだけれど、こんな状態で、昔の人は、どうやって紅葉を楽しんでいたんだろう?加工品がないのはもちろんだけれど、街路樹だって、通りが整備された後植えられたわけだから、どんなに長くても100年くらいだろうと思う。でも、そのずっと前から、秋に色付いた葉の美しさや儚さが詠われてきた。彼らはたぶん、遠くの山を見ていたのだ。

昔は街路樹もなかったけれど、高い建物もなかった。とくに京都は四方を山に囲まれている。気温が低くなってくるにつれて、一面緑だった山々が、黄色や橙に色付いていく。日に日に深い色になっていく山を見て、秋の神様が山へ来られたと、きっと感じたんだろうと思う。遠くから見れば、1枚1枚の葉の傷や汚れなんて気にならない。切り落とすことなんてできないので、乾燥してすぐに散ったりもしない。私たちがよく耳にする秋と紅葉を歌った歌の多くは、ちょっと物好きな歌人が山で隠遁生活を送ったときに書いたものか、それに感化された人がイマジネーションで詠んだものだと思う。都の人々にとって、紅葉とは遠くから見るものだった。

木や草花を、カットした状態で飾るのが当たり前になった現代人。そこには「きれいな紅葉」との大きなズレが生まれた。樹から切られた紅葉は、それほど美しいものではない。それでも「紅葉はきれい」という幻想が、ファーガスリーフやもみじの造花を生み出した。伝統文化の世界ではそういう新しいものは否定されがちだけれど、私は大いに賛成したい。昔とは環境も技術も違うのだ。そして何より忘れてはならないのは、昔の人と私たちでは、紅葉の楽しみ方そのものが違うということ。これはたぶん、どんな花にも言えることなんじゃないかと思う。今の私たちが伝統だと思っている見方や楽しみ方を、500年前の人たちが同じように感じていたとは限らない。大切なのは、昔の人たちが、遠くの山が毎日少しずつ色付いていく景色に、何を感じていたのかということ。「古人の跡を求めず 古人の求めたるところを求めよ」(また芭蕉の言葉です)。

 ※ややこしいので「紅葉」と漢字表記のときは「こうよう」、「もみじ」はひらがな表記にしました。

DSCF8139

先斗町藤わらさんいいけさせていただいた、ブルーベリーの紅葉に、秋色ピンクの胡蝶蘭。

DSCF8181

こちらは四条木屋町、立ち飲みもみじさん。もみじだけに秋はやっぱりもみじをいけたいんですが、本物だと一瞬で乾燥してチリチリになってしまうので、造花です。こちらはリアリティ出すべく、葉の付き方が似ているどうだんつつじの枝(本物)に、造花の葉っぱを1枚1枚つけた工作品です。

 

DSCF8403

こちらは先斗町の焼鳥屋さん・八十八(やそはち)さんの、出格子ウインドウのお花。超大輪の菊は鮮やかなイエローで、もみじの赤とのコントラストを楽しみます。器が無地なので、器の柄みたいなイメージであしらってみまました。

DSCF8393

右下の柿色の菊は“フエゴ・ダーク”といいます。この菊、形が乱菊の模様みたいに素敵なのですが、色が床の間などの木の色が背景ではぜんぜん映えないので、「いけこみには使えないな~」と思っておりました。でもアレンジメントに入れてみると、すごい秋感。お花自体が紅葉色なので、アレンジと言う「色」を楽しむスタイルに合ってるんだろうなぁ。