虹色の傘
雨ばかり降っている、日曜日の夜。
雨は嫌いではないけれど、昼間、胡蝶蘭の配達をした。
車から出るのも億劫な土砂降りで、
せわしなく動くワイパーを眺めながらさてどうしようかと考えて、
ようやく決意して胡蝶蘭にカッパを着せてやり、
自分用の傘もなんとなく胡蝶蘭に奪われて、わずかな距離の間に私の後ろ半分は水浸しになった。
靴の中にも水が入るし、クーラーの風が当たると背中が冷えるし、
ツイている雨の日、とはちょっと言えない夕方。
しかしまぁ仕事が終わって人とご飯を食べに行って本屋さんに寄ってみた。
店内を見て回るのに飽きてガラス張りの二階から通りを眺めると、
濡れたアスファルトとヘッドライトの滲んだ橙。やむ気配のない雨にようやく決意してエスカレーターを降りた。
ちょっとだけ憂鬱な気分で一日が終わろうとしていた。
ビニール傘を開けた勢いで、足に飛んだ水しぶきにさえため息をつきながら歩き始めた瞬間、
目の端に虹色が映った。
私が下を向いていたせいでぶつかりかけた女の人は、
虹色の傘をさしていた。
目の覚めるような笑顔で、私の不注意になんて見向きもしないですぐ左側をさっと横切って行く。
私は虹色の傘とその笑顔から目を離すことができなくてまるで運命の出会いのシーンみたいに、
彼女が通りすぎるままに後ろを振り返った。
彼女は待ち合わせの相手のもとへ行き、虹色の傘をたたんで店へ入って行った。
後姿から、笑顔や嬉しそうな声さえ、聞こえてきそうだった。
その鮮やかさになんだかすっかり見とれてしまって、
雨が傘を打つ音で我に返ったのはしばらくたってからだった。
歩き始めたときには、湿った背中や濡れた靴のことは、もう気にならなくなっていた。