見えない雪
初冬に出回る、“寒菊”という菊。
花屋さんで一年中手に入る、しっかりまっすぐで大きな花をつけた菊と違い、まるで庭から切ってきたような風情で、秋の終わりから冬の始まりにだけ出回る菊。華奢でくねくねした自然の姿に小さな花を、灯りのようにぽつぽつとつける。それだけでもじゅうぶん素敵なのだけれど、寒菊の見どころは葉っぱである。
秋の終わりらしいくすんだ緑に、ところどころ赤いところがある。これは紅葉しているんじゃなくて、季節が冬に近づき雪や霜にあい、冷えて色が変わってしまったもの。だから寒菊がいけてあるのを見れば、その菊が咲いていた場所の霜や雪に、想いを馳せることができる。
私はそれが、日本の花の醍醐味だと思う。たった一輪の花から、そこにはない、見えない季節を感じさせる。「寒い中よくお越しくださいました」、「もうこんな季節ですね」。いけ手と客人の、見えない言葉のやりとり。美しいと思う。花の他に、そんなことができるだろうか。
寒菊はツウ好みである。雪の話を知らなければ、ただの紅葉した菊。私は花のいけ方よりも、花の向こう側をお伝えすることができる、華道家でありたいと思う。
祇園 内藤工務店さんにいけさせていただいた寒菊。雪の話を工務店のお兄さんたちにしていて、久しぶりにブログを書きたくなりました。