桜の花の、満開の下

生け花展 “hana2010  花を華へ いけばなに想いを ~18流派のカタチ~” 出品
2010年3月31日-4月5日 京都芸術センター(旧明倫小学校)、京都
Flower; 桜、椿

京都には、桜の名所がたくさんあります。
鴨川もその一つ。川端通りには北から南までずーっと桜が植えられて、
トンネルのように空を覆って私たちを迎えてくれます。
けれど鴨川沿いの桜には、ライトアップがありません。
北へ行くほど暗くなって丸太町、ある月明かりの夜。
暗闇に溶けてしまった幹にぼうっと浮かぶ白い花。
人も車もまばらで、その白が周りの音をことごとく吸い取ってしまったかのように、
はらはらと、花の舞う音まで聞こえてしまいそうでした。
まだ肌寒い春の夜の闇の中で、その桜は、白くて温度のない、美しい幽霊のようでした。
触れてはいけない魅入られてしまってはいけないなのに、目を離すこともまたできない。
どういうわけかふとそれが、桜の本当の姿だという気がしました。
青空も照明もない桜に目を向けさせてくれたのは、
坂口安吾の、『桜の森の満開の下』という小説のおかげです。
その小説に敬意と感謝を込めて、自分でも桜をいけてみました。
春の京都はあまりにも桜がたくさん咲くから、
ついショーアップされているものにばかり目がいきます。
だけどライトアップや観光名所に咲く桜だけが、桜じゃない。
「きれい」なだけが、花じゃない。そんな風に、思うのです。