万葉集から学ぶこと
新元号「令和」は、『万葉集』からの出典だそうだ。そうでなくても万葉集、万葉集とよくお話するのだけれど、よく考えてみると「日本最古の歌集」であること、全20巻・4500首のうちのほんの数首を知っているだけだったので、少し調べてみた。
『万葉集』は、最古であるとともに、最高であるらしい。最高の所以は詩形の多さ、語彙の豊かさ、種々雑多な作者などにあるらしいのだけれど、最も大きな特徴は、歌人が感情を直接的に表現しているところにある。後の歌集で良しとされた暗示や婉曲に支配されず、「万葉歌人は、単なる感傷にとどまらない真の悲劇、単なる感動にとどまらない赤裸々なドラマを歌に詠むことができた。」※1
新元号は、第5巻、大伴旅人(『万葉集』の編纂者ということで落ち着いている大伴家持の父)の邸宅に集まった人々が、うららかな春の日を共に過ごし、梅の花に関して詠んだ32首の冒頭に添えられた漢文から定められた。万葉集に収録された歌は、日本語の音を漢字で記した「万葉仮名」が用いられている。梅の歌32首も、然り。しかしその全体を紹介する序文は、漢文で残した。私たちは、古文も漢文も同じように古典の時間に習うからそれほど大きな違いがあるように感じないけれど、当時の人々にとっては大きな隔たりのある表現だった。「漢文は学問をする言葉であり、和歌は恋を語る言葉であった」※2。」
季節や時が過ぎて行くこと、人の心が移り変わること。そしてそのことに、何よりも心を痛める日本独特の美。その表現は私たちの言葉でしかできなかった。しかしその表現を紹介する文章を、オフィシャルであり外国語である漢文でしたということ。彼らは、何を残したかったのだろう。異国の人々へ伝えたかったのだろうか。もしかしたら、後世の日本人に伝えたかったのかもしれない。仮名が日本語を形作る一部になる未来なんて知らなかった時代、人々が何に心を動かし痛め、何を美しいと感じたか。私たちは、それこそを知らなければならないのかもしれない。
2019年3月23日の花道部でのミニ講義
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